手巻きデイトナ友の会「Club727」

1960年初頭(一説に61年)、初代コスモグラフ・デイトナRef.6239が誕生する。それまでのクロノグラフのイメージを一新した反転色のインダイアルと、過去の多くのクロノグラフが文字盤に表示してきたタキメーターをベゼルに直接刻むことで、すっきりした文字盤で、なおかつクロノグラフであることを前面に押し出したあくの強い印象のスポーティーな風貌である。ステンレスベゼルのRef.6239が登場してすぐ、プラスティックのベゼルを持ったRef.6241が登場する。その後、自動巻きのコスモグラフが登場するまで、ベゼル違いのこの2機種がデイトナのラインナップとして継続されていくことになる。この初代コスモグラフ・デイトナにロレックスが採用したムーブメントは、クロノグラフモジュール製造の老舗バルジューのCal.72をチラネジテンプでロレックスチューンしたCal.72B。本来マニュファクチュールを目指すロレックスとしては、自社開発のクロノグラフムーブメントを搭載したいところなのだろうが、真の最強クロノグラフをデイトナに求めたロレックスにとって苦渋の選択といわざるを得なかったのかもしれない。ロレックスはムーブメントにさらに改良を加えた。ヒゲゼンマイの絡みを防止するプレートを取り付けたCal.722-1が早々にRef.6239、6241に搭載された。初代コスモグラフを支えたこの二つのムーブメントは最強のクロノグラフ・ムーブメントとの呼び名も高いCal.727へと進化していく。Cal.722-1からCal.727への主な変更点はテンプを小型化することにより、従来の5振動から6振動へと振動数をアップさせ、マイクロステラスクリューで遠心力を調整し精度の向上が図られたこと。耐震装置にキフ・ウルトラフレックスを採用したこと。このCal.727は手巻きコスモの最終型Ref.6263/5まで、およそ20年間コスモグラフ・デイトナを支え続けることとなる。



手巻きコスモはムーブメントと外装の進化の過程で非常に興味深いモデルを登場させている。Ref.6240とRef.6262/4である。Ref.6240は、心臓部にCal.722-1搭載のままオイスター化を追及したモデル。Ref.6262/4は外装のノンオイスターはそのまま、心臓部ににCal.727を搭載したモデル。仮定ではあるが、まるで外装とムーブメントのそれぞれの開発チームが最強のクロノグラフを目指し、競い合ってデイトナを進化させていったようにも考えられる。ムーブメント開発チームは5振動を6振動に変更し精度をアップさせることに成功した。オイスター開発チームは世界初のねじ込み式プッシャーで50m防水を実現し、80年代にはそれを100m防水にまで進化させた。この二つの開発チームの努力により、最強のムーブメントを搭載し、最強の防水性能を持ったRef.6263/5が誕生するのである。仮定の話ではあるが、この二つのモデル(Ref.6240とRef.6262/4)が同時期に存在したことを考えれば、あながち眉唾とも言い切れないかもしれない。この二つのモデルをベースに手巻きコスモの最終型Ref.6263/5が登場し、オイスター・コスモグラフ・デイトナが完成するのである。Ref.6263/5は1969年ころから1988年頃までの約20年間、大きな変更を受けることもなく生産され続けた。それだけオイスター・コスモグラフ・デイトナは完成されたクロノグラフといえるのかもしれない。その後ロレックスのポリシーである、オイスター&パーペチュアルにのっとって自動巻きのRef.16520が登場することによってコスモグラフの進化はまた一歩先に進むことになり、それと同時に手巻きコスモは新たな伝説を創り始めることになる。
Cal.727の奏でる音色が独特の哀愁を漂わせるチクタク音に聞こえるのは気のせいだろうか?

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